成熟経済における個人消費と投資そして寄付

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 経済の規模は、世の中で動き回っているお金の量とスピードを掛け合わせたものである。 それで政府は成長率を高めようとして、公共投資などに予算を投入したり超金融緩和で、大量の資金を供給しているわけだ。

 それが、アベノミクスによる成長戦略であり、黒田日銀総裁による年80兆円の国債購入である。 しかし、なかなか効果が表れてこない。 せいぜい、日本経済のジリ貧やデフレ現象にブレーキをかけている程度。

 どうして効果が出ないのだろう? 国民がお金をつかわず、ひたすら預貯金残高を増やし続けているからだ。 お金を抱えるばかりで、経済の現場にまわそうとしないからだ。

 ちなみに、日本経済がバブル崩壊で下降に転じた1990年には、GDP が520兆円ほどだったのに対し、個人金融資産は1000兆円であり、預貯金残高は500兆円だった。

 それが、現在はGDP が484兆円に対して、個人金融資産は1717兆円そして預貯金残高は834兆円へと大きく膨れ上がっている。 日本経済がしぼんだ一方で、個人つまり家計の預貯金マネーは334兆円も増加しているのだ。

 これでは、経済活動の活性化も成長率を高めるのも無理である。 もちろん、国民の富も増加しない。 なにしろ、預貯金から売る家計の利子所得は2000億円にも満たない。 2000億円の利子収入って、GDP の0.04%に過ぎないのだ。

 政治が本来焦点を当てるべきは、まさにここである。 いかにして、国民にお金をつかわせるかだ。 国民が預貯金マネーを取り崩して、消費や投資にまわすだけで、日本経済はいくらでも活性化する。

 たとえば、預貯金834兆円の5%を経済の現場に投入するだけでも、単純計算で8.6%の成長要因となる。 もちろん、41兆円ちょっとの預貯金が引き出されるマイナス要因を考慮すると、実際の成長寄与度はもっと低くなる。

 しかしだ、預貯金に預けられた834兆円の大半が超低金利政策の下では、せいぜい1%ぐらいの運用収益しか稼ぎだせない。 日本経済全体でみるに、それほど富の増加に寄与しているわけではない。

 ところが、預貯金の5%でも自分の意思をもって経済の現場に投入されると状況は一変する。 自分の意思には収益増加期待も入ってくる、つまり活きたお金のつかい方につながっていくからだ。 それが経済活性化と成長率上昇に直結する。

 わかりやすい例をあげよう。 さわかみファンドで自分年金づくりしようという意思でもって預けておくと、その資金は企業応援にまわって日本経済活性化に貢献しつつも、16年4カ月の実績では年率複利で5%のリターンとなっているではないか。

 あるいは、41兆円が生活困窮者への寄付にまわったとしよう。 その方々は受けた寄付の大半を即座に消費に向けるだろうから、日本経済でみると個人消費が41兆円も増加することになる。 つまりは、8%の成長要因となるのだ。

 そう、日本経済の活性化には、一にも二にも個人の預貯金マネーを動かさせること。 消費でも長期投資でも寄付でも、とにかくお金に働いてもらうことだ。