運用成績は競わない、出てしまうもの

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 40数年にわたって運用のビジネスに携わってきたが、世界の運用現場で生き残るのはかなり大変なことである。 日本はサラリーマン運用者がほとんどだから、成績が悪くても他の部署に異動することで済んでしまう。

 ところが、海外では運用成績がすべてであって、成績が出なければ職場を去るしかない。 去るというよりも、追い出されてしまうのが日常茶飯事である。

 おおざっぱにいって、当初の10人が10年たって生き残っているのは1人か2人ぐらい。 15年たったら、もはや1人が生き残っているかどうかの世界である。

 成績数字でもって激しい振るいがかけられる以上は、それに打ち勝たねばならない。 どの運用者もアナリストも、しゃにむに経済や社会そして相場の勉強をし、投資運用の腕を磨くことになる。

 それでも、結果は違ってくる。 個々人の努力や集中力あるいは決断力さらにはセンスといったものによって、どうしても差がついてしまう。 それが、淘汰の第1段階である。

 結果を出せる能力ではある程度クリアできたとしても、籍を置く運用会社の経営姿勢や資金を預けてくれる顧客の質によって、運不運が生じてしまう。

 短期投資でも長期投資でも、自分の得意とする運用を伸び伸びとやらせてくれる運用会社に恵まれることが、淘汰の第2段階である。

 しばしば、優秀な運用者は大金を積んででも獲得しなければといわれる。 それは二流三流の人材においての話。 一流を自負する運用者は、お金では動かない。 あくまでも、自分の運用能力を100%発揮させてもらえる職場環境を用意してくれるかどうかだ。 

 成績を出す自信はあるのだから、その環境さえ整えてもらえれば、いくらだって結果を残せるし預かり資産もどんどん増加していく。 大きな報酬は後からついてくると自信たっぷりなのが、一流の運用者である。

 淘汰の第3段階は、どこまで自分のリズムを守れるかだ。 機関投資家の運用ともなれば、資金を預けてくれる顧客の意向には逆らえない。 運用成績も随時チェックされる。

 それに振り回されると、自滅の沼に沈んでいくことになりかねない。 一例をあげると、上昇相場には最後の最後までついていかないと、運用成績で競争相手に負けてしまう。

 自分の判断で、そろそろ利益確定の売りに入ろうとするのは自由だが、その後もどんどん上昇相場が続いた日には悲劇が訪れる。 ずっと強気で買っていた競争相手に成績差をつけられて、場合によっては運用資金を取り上げられてしまうのだ。

 常に成績に追い回されるのは、機関投資家運用の限界の一つといえる。 大半の運用者は上昇相場を途中下車できないまま大天井まで行っては、急落相場に遭遇するリスクを冒してしまう。

 やはり、ある程度は顧客資金を失うリスクを取ってでも、自分の投資リズムを守る勇気が欠かせない。 たとえ10%でも20%でも現金化して急落相場を迎えられたら、顧客の信頼は一気に高まる。

 第4の淘汰は、ポートフォリオの中身である。 大きな資金を預かり運用する限り、急落相場を前にしてもそうそう現金化はできない。 どうしても、ある程度の投資残を抱えたまま下落相場と直面することになる。

 そこで、決定的な成績差がつくのは、売るに売れない店頭株や小型株をたっぷり抱えたポートフォリオである。 上昇相場の間は好成績を騒がれたかもしれないが、相場が天井をつけて下落に向かってからは、もう奈落の底へ一直線となる。

 いつの時代でも相場はどう転がるか知れたものではない。 日頃から、すこし成績で差はつけられても構わないから、いつでも現金化の心準備つまり流動性を意識したポートフォリオ構築が求められる。

 どこまで顧客資産を守りながら、しっかり殖やしていくか、それが運用者に問われる永遠の課題である。 相場変動を逃げることなく、また相場に振り回されることなく、早め早めの行動を心掛けるには、顧客の信頼が欠かせない。 安心して任せてもらうことで、思う存分の長期投資運用ができるというもの。

 ここまで書いてきて、もうお判りだろう。 長いこと、年金など機関投資家運用の限界を目の当たりにしてきて、それらを吹っ切った長期投資ができるように設計して、さわかみファンドを設定した。

 目先の運用成績を競って、相場にがんじがらめにされない。 自由に伸び伸びと本格的な長期投資を展開していき、安く買っては高く売り上がっていくリズムを大事にしていれば、成績など後からついてくる。

 実際、さわかみファンドは過去15年余り、まったくのマイペースで思いのこもった長期投資を続けてきて、平均株価の2倍という成績を残している。 他にないよ、これだけの大型ファンドで、この実績は。