生活者の長期投資は文化である

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 成熟経済において、生活者による長期投資はきわめて重要な役割を果たす。 ここのところの認識は、成熟経済の先輩である欧米でもそれほど高まっていない。

 理由は簡単で、欧米では所得格差が大きく生活者の長期投資という概念が未発達だからだ。 もちろん、一部の高所得層は余裕資金をどんどん投資にまわしている。 しかし、大多数の低所得層は日本のサラリーマン層よりも年収はずっと低く、とてもではないが投資などに縁はない。

 ちなみに、投資教育とかで投資の大衆化が進められてきているが、まだ30年ちょっとの歴史でしかないのだ。 そもそも投資教育が叫ばれるのは、それだけ投資文化が一般大衆の間で広がっていない証左である。

 一方、欧米の高所得層の間では投資は日常生活の一部になってしまっている。 あり余っている資金をぼんやりと銀行に預けておくなんて、それこそお金の無駄づかいとみなされ、罪の意識さえ持っている。 すこしでも多くの資金をより有効に投資運用にまわすのが常識つまり、もう文化のようになっているわけだ。

 その点、日本では多くの一般庶民がそこそこの金融資産を保有する、世界でも例をみない中産階級層をなしている。 この中産階層はよく歴史に出てくる産業ブルジョワジー的な人々ではなく、預貯金をたっぷり抱え込んでいるところが大事なポイントとなる。

 日本経済の1.7倍にもおよぶ800兆円の預貯金を保有する一般庶民が、これから長期投資を身につけていくことで産業ブルジョワジーならぬ、プチ資本家となっていく。 それが、欧米には見られない成熟経済の成長パターンを描くことになるのだ。

 いつも書いているように、企業を応援して一緒に良い社会を築いていこうとするのが長期投資である。 株式市場で売りが殺到する暴落相場時に断固たる応援の買いを入れることで、経済の現場に資金を供給し経済活動のトーンダウンを防ぐのが、リスクをとれる資本家の役割である。 その役割を日本の個人マネーが果たしていくのだ。

 世の中で永久に売れるものはなく、買いが入れば入るほど、どんな下げ要因も消えてなくなる。 長期投資家が応援する企業を中心に下げが止まり早くも上昇に転じれば、そこを起爆点にして新たなる経済の拡大発展につながっていく。 結局は国民のすべてにプラスとなる。

 別に政治がリードしなくても、個人マネーが企業の応援投資を活発化させることで、日本経済をいくらでも活性化できる。 むしろ利権や既得権でギラギラした政治が動くよりも、長期投資家が良い企業を選別することで、出来上がってくる経済成長の質が良くなる。 そこに住むのは自分たちであり、子供や孫たちである。

 さらに、そこから先がある。 長期投資で経済をいくらでも活性化と良質化させることができると同時に、投下した資金のリターンも後から積み上がってくる。 どんどん殖えていく資産の一部を、われわれ一人ひとりカッコウ好く世の中に使っていくのが、次なるテーマとなっていく。 生活に余裕のある、プチ資本家ならではの世界が待っているわけだ。

 どうだろう。 ここまで行けば、もう立派な文化である。 まだ欧米でも成し得ていない、一般庶民による成熟社会の活性化モデルを、日本が世界に提示していくのだ。