グレートローテーション

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 あまりなじみのない表現かもしれないが、これから徐々に一般化していく言葉である。 何かというと、世界のマネーが債券選好から株式へと大きくシフトしていく歴史的な現象をいう。 これは、30年ぶりのことである。

 1960年代の初めに成長株理論が登場してきて、それまで債券が主流だった世界のマネーマーケットで株式のウエイトが急速に高まっていった。 そして、70年代の初めごろからの世界的なインフレ傾向で、長期金利が急上昇し債券価格はボロボロの水準にまで下落していった。

 米国の長期債でいえば、10年物の利回りが10%を大きく超え、一時的には16%にまで上昇した。 60年代の4%前後とは、まったく居場所を変えてしまったわけだ。 世界中の債券市場が開店休業状態になってしまった。

 ところが、1983年ごろから少しずつ、そのうち急速に加速しながら債券市場へ世界の投資マネーが流入していった。 それは、世界でも断トツの最大規模を誇る米国の債券市場の動向に、はっきりと表れている。

 当時10%を超えていた米国の長期金利は趨勢的に下がっていき、10年物で5%そして4%台の流通利回りにまで下がっていった。 これは、60年代半ばまでの債券投資家にとっては古き良き時代の平均利回りで、ようやくそこまで債券市場が失地回復したわけだ。

 それが、2012年の7月には史上最低の1.38%をつけるまで低下した。 金融バブル崩壊で先進国の銀行など金融機関の経営状況が悪化し、世界中のマネーがなにがなんでものリスク回避で国債シフトを急いだ結果である。 そこへ、先進国政府や中央銀行は史上空前の金融緩和政策に踏み切ったから、長期債利回りは大幅に低下した。

 いまや先進国中心に国債バブルといわれる状態になっている。 ジャブジャブにばら撒いた資金をいつまでも放置はできない。 どこかで金融の引き締め、つまり出口戦略を実施しないと、とんでもないインフレを招いてしまう。 金融引き締めあるいはインフレの到来、どちらも債券投資にとってはマイナス要因である。

 その上、80年代から債券を買い越し一方だった世界の年金が、どこも高齢化で資金の流出超の段階に入ってきた。 もうこれまでのような債券の大口買い手という立場はとれない。 これは、世界の債券マーケットにとって構造的なマイナス要因である。

 これらを勘案するに、もういつどこで債券価格の下落と債券市場からのマネーの流出が起こってもおかしくはない。 債券市場に向かっていた世界のマネーは巨額だから、その受け皿は株式市場を置いて他にない。 それで、債券から株式への資金シフトが、そろそろはじまると世界は読んでいるわけだ。

 もちろん、グレートローテーションといっても今日明日の話ではない。 これから5年ないし10年ずっと加速していく、大きな大きなマネーシフトである。 われわれ長期投資家にとっては、とにかく株式投資ポジションを高めておくだけのことだがね。