推と論

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 これを書き出すと一日仕事になってしまうので、今日はホンのさわりだけにしよう。

 われわれ長期投資家は、いつも広く深く遠く考えるようにしている。 将来に向けて、”こんなことも起こり得るな” の大きな大きな想定空間を構築し、その中で ”どの可能性が、どのような時間軸で、どのように伸びていくのだろう” を、あれこれ考える。

 その作業を一言で表現すると、推と論なのだ。 推とは、イマジネーションをできる限り遠くまで、自由自在かつしなやかに伸ばしてやる作業といっていい。 将来の可能性だから、なんでもあり得る。 したがって、いろいろ現実的な制約を設けず、ありとあらゆる可能性に思いを馳せることが重要となる。

 論は論理、つまりいろいろな可能性に対し、いまある統計データなどを駆使して確実に押さえられる所だけを固めていく。 推が暴走して妄想になりかねないところを、論理でブレーキをかけたり軌道修正を施すわけだ。 また、論理の展開次第では当初は想像もつかなかったイマジネーションの芽も出てくる。

 抽象論はこのくらいにしておいて、すこし実例を挙げてみよう。 たとえば、皆さんの財産づくりだ。 ユーロ危機や新興国経済の成長スローダウンとかで、世界のマネーは安全重視で米国の国債へ逃避している。 機関投資家としては、リスクを抑えつつも成績を出したい中で、いまは国債選考という投資判断を優先せざるを得ないというわけだ。

 さて、われわれ一般生活者にとって米国債10年物の年1.93%の利回りをもって、財産づくりは万全だろうか。 同じ論理は日本の国債にも当てはまる。 10年間で年0.92%にしかまわらない。 長い目でならしてみると、世界経済は年4%ぐらいの伸びをしており、インフレは3%台の後半の数字である。 そう考えると、財産づくりは年5%から6%ぐらいの伸びを期待したいもの。

 でも、現実は年5%とか6%とかの成績など不可能に近い? 国債価格は最高値圏にへばりついているし、株価は低迷しているから、とてもそんな投資リターンなど出せそうにない?

 ここに、推と論の出番がある。 現実はそうかもしれないが、長い人生において財産づくりというか生活防衛の観点からも、インフレ率を上回る財産づくりは絶対であろう。 その絶対ニーズに向かって、世界が大きくスウィングする時はいつか、どのような展開となっていくのだろうか、いろいろ考えておきたい。 そして、早めに手を打っておく。 これが、長期投資である。

 現実は現実。 それと生活者の将来ニーズとのギャップ、それこそが投資チャンスである。